森は、空を見上げている。
土の下にいる種のことを、思いながら。
種に変化があるのか、
まだ 宵星の森にはわからない。
森が豊かになることを想うと、
胸の奥が 少しだけワクワクする。
けれどーー
いま、ここに座っているだけでいい。
足もとから伝わる土の温度。
それだけで、今日は満たされている。
岩の上で、もう一度 深く息を吸い込む。
湿った土のにおいが、
風が運んでくる若々しい香りが、
まだ見えない季節を知らせる。
静かな宵星の森。
ここで呼吸をしているだけで、
きょうは、もう十分だ。
宵星
森は、空を見上げている。
土の下にいる種のことを、思いながら。
種に変化があるのか、
まだ 宵星の森にはわからない。
森が豊かになることを想うと、
胸の奥が 少しだけワクワクする。
けれどーー
いま、ここに座っているだけでいい。
足もとから伝わる土の温度。
それだけで、今日は満たされている。
岩の上で、もう一度 深く息を吸い込む。
湿った土のにおいが、
風が運んでくる若々しい香りが、
まだ見えない季節を知らせる。
静かな宵星の森。
ここで呼吸をしているだけで、
きょうは、もう十分だ。
宵星
湿り気を帯びた土の中は、種にとって 何時までも心地よいところだ。
宵星の森は、種が動くのを、今かいまかと 待ちあぐねている。
でも、種はちっとも動かない。
静かな地中に 聞こえる音は、種のまわりをカサコソ進む、
見えないはたらきもの。
土のともだちでもある、この小さな 見えないはたらきものが
歩んだあとは、フカフカであたたかい空気が、すき間を埋める。
芽は、フカフカふとんでお休み中。
宵星の森は、ゆっくりと、急がずに待っている。
宵星
今日の宵星の森は、風も踊らず、雨も降らない静かな凪夜だ。
それでも森は だれかの息づかいを待つ。
この静けさも、土の奥ではパラパラ撒かれた肥やしのようだ。
曇りの日の森は ひそやかなぬくもりがある。
桜の花が 満開になった昼下がり。
子どもが言った。
大きくなったら 土地を買って、桜の木と桃の木を植えるのだと。
桃は縁起がいいのだと教えてくれた。
マンゴーも、ドラゴンフルーツも植えるのだと言う。
そして、あっ と思い出したように、イチゴも植えると言った。
お兄ちゃんが大好きだから、実がなったら分けてあげるのだと。
その言葉を聞いたとき、
森にひとつの種が蒔かれたと感じた。
子どもの囁きとともに、
種は土の中で静かに支度をはじめる。
種は、朝露の含んだ森の土で、静かに息づいている。
朝露を含んだ土のぬくもりに纏われながら、
種は夢を見る。
未だ見ぬ季節のかおりを、やわらかな風の軽やかさを。
小さい芽は闇の中で耳を澄ませているーー
あの日の子どもの声に。
子どもが未だ見ぬ未来にまっすぐに信頼を寄せる、その形は光に似ている。
光はまだ地上にとどいていなくても、そこに在る。
小さい芽はそれを知っている。だから
だから闇を恐れない。
季節のはじまりと終わりを告げる雨のように、
森に ほのかな光香をのこしたい。
ツトツトと霧雨が 宵星の森にも降るこの頃。
土の匂いが 表土に伝わり、
纏われていた種が 微かに揺れた。
子どもは「いい人」と思っていた人から、
心ない言葉をかけられて、しょんぼりしていた。
たまたま、相手の気分が優れなかったのかもしれない。
あるいは、言葉がどこかですれ違っただけかもしれない。
シュンとしていた背中が、ゆっくり動き出した。
「それでも、僕は僕の言葉を大事にしていく。」
子どもの胸に降った雨は、
宵星の森にも 静かに降りそそぐ。
光を探していた芽は、
立ちのぼる香りを、静かに受けとめている。
ようこそ、宵星の森へ。
今日、森のほとりに
ひとつの種が蒔かれました。
花を咲かせる木か、
実を結ぶ木か。
それは芽吹いてからの 楽しみです。
この小さな種には、
芽吹くと信じるこころと、
土の重み、
太陽のひかり、
雨や風、
移ろう季節という時間が、
そっと託されています。
そしていつか、
実りのよろこびを
誰かと分かち合いたいという想いも。
宵星の森に生きるものは、
この小さな種に、
「この一瞬」を重ねていく
確かな時間を
思い描いています。
宵星
ようこそ、宵星の森へ。
今宵は、
新たな星めぐりが始まる夜。
にぎやかに 奏でる祝祭の音もなく、
誰かに 新たな日のお祝いを告げることもありません。
ただ、静かに。
宵星の森には、まどろみを帯びた風が
ゆるやかに 通りすぎていきます。
そこへ、
まだ名のない やわらかな風が
木の枝のあいだを
そっとなびかせていきます。
なにかを新しく決めなくても、
なにかを強く誓わなくても、
星は巡り、
風はめぐり、
日々は常に続いていきます。
森の扉をひらいたとき、
こころの片隅に
小さな光の雫が灯るのなら、
それだけで、
今宵は 満ち足りているのかもしれません。
宵星
今宵は、森に
やわらかい風が通っています。
宵星の森には、
吹く風も さまざまなかたちがあります。
いつも、同じではありません。
頬を さらりと撫でていく風もあれば、
全身で受け止めるほどの、
確かな気配をまとった風もあります。
宵星の森への扉は、
いつでも そっと開かれています。
扉をひらいた瞬間、
頬をかすめる風の動きを、
少しだけ感じてみませんか。
風が通り抜けたあと、
森には 静かな余白が生まれます。
葉の揺れは おさまり、
音は、やわらかく遠のいていきます。
そして、
足もとに広がる土の感触に
ふと 気づくのです。
湿り気を含んだ土は、
今日という一日を
静かに受けとめています。
楽しかった時間も、
何も起こらなかった穏やかな時間も、
そのすべてが そこに在るまま、
宵星の森は、
今宵も 静かに 呼吸しています。
宵星
この森は、
だれかのために 強く光るところでは ありません。
早く 答えにたどり着くところでもなく、
正しさを 道しるべにする場所でもありません。
ただ、
少し歩みをとめて、
ほのかに光る星を 見上げるような
夜のひとときを過ごすところです。
森に入った人を選ぶことも、
何かを押しつけることも ありません。
ここは、静かに記す場所です。
いかなるときも、
日々は たしかに 続いていきます。
そのなかで、
ふと 立ち止まりたくなった夜に、
そっと思い出してもらえたら。
宵星の森は、
今日も 静かに呼吸しています。
宵星
ようこそ、宵星の森へ。
夜の森は、静かに呼吸しています。
葉擦れの音。
遠くで流れる水のせせらぎ。
微かに聞こえる虫の音。
星はそっと耀きはじめています。
急がなくてもいい。
耳を澄ませるだけで、夜は少しずつ開いていきます。
宵星
毎日、いろんな人間関係がある。
それでも、この世は愛おしい。