種は、朝霧を含んだ 森の土で息づく。

桜の花が 満開になった昼下がり。

子どもが言った。

大きくなったら 土地を買って、桜の木と桃の木を植えるのだと。

桃は縁起がいいのだと教えてくれた。

マンゴーも、ドラゴンフルーツも植えるのだと言う。

そして、あっ と思い出したように、イチゴも植えると言った。

お兄ちゃんが大好きだから、実がなったら分けてあげるのだと。

その言葉を聞いたとき、

森にひとつの種が蒔かれたと感じた。

子どもの囁きとともに、

種は土の中で静かに支度をはじめる。

種は、朝露の含んだ森の土で、静かに息づいている。

朝露を含んだ土のぬくもりに纏われながら、

種は夢を見る。

未だ見ぬ季節のかおりを、やわらかな風の軽やかさを。

小さい芽は闇の中で耳を澄ませているーー

あの日の子どもの声に。

子どもが未だ見ぬ未来にまっすぐに信頼を寄せる、その形は光に似ている。

光はまだ地上にとどいていなくても、そこに在る。

小さい芽はそれを知っている。だから

だから闇を恐れない。

季節のはじまりと終わりを告げる雨のように、

森に ほのかな光香をのこしたい。

ツトツトと霧雨が 宵星の森にも降るこの頃。

土の匂いが 表土に伝わり、

纏われていた種が 微かに揺れた。

子どもは「いい人」と思っていた人から、

心ない言葉をかけられて、しょんぼりしていた。

たまたま、相手の気分が優れなかったのかもしれない。

あるいは、言葉がどこかですれ違っただけかもしれない。

シュンとしていた背中が、ゆっくり動き出した。

「それでも、僕は僕の言葉を大事にしていく。」

子どもの胸に降った雨は、

宵星の森にも 静かに降りそそぐ。

光を探していた芽は、

立ちのぼる香りを、静かに受けとめている。

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